「時を止めて・・・」
1月13日の土曜日、思いがけないミニコンサートを聴いた。丸太っ子クラブ主催の絵画教室の前に、音楽大学の女子学生3人が、声楽、ピアノ、バイオリンで演奏会をしてくれた。その中のひとりが、「子どもの頃にお世話になりました。」とあいさつされて、15年ほど前の○○さんだと気がついた。
3人は、事務所で舞台用のドレスに着替える。まだ20歳前後の女性の華奢な体にはドレスが重そうだが、3人は一向に気にせず、ミニコンサートは始まった。若さ、硬さ、初々しさ、懸命さ、誠実さが伝わってくる楽しい音楽会となった。
途中、「バイオリンの白い弦は何の動物の尻尾でできているでしょう?」というクイズに、子どもが「ウサギの尻尾」と答えたのが、笑いを誘った。正解は「馬」。屈託のない若さが華やかである。そのあと、子どもたちは教具室で絵を描く。指導の宮本先生が、「今見たお姉さんたちの一番印象に残っている人を描いてみましょう。」と促す。「なるほど。そうつながるわけか。」と、私は納得して事務所で仕事に戻った。
この時期、誰もいない事務所で仕事と言えば、ミュージカルの準備である。用意したCDを片っ端から聴いていく。心に留まった曲をMDに入れ込んでいく。とりあえず、手あたり次第という感じでひたすら曲を聴く。
昨年の今頃は、何を聴いてもただ悲しくて、悲しくて、こんなことで親子ミュージカルができるのか、不安になったのを覚えている。たまたま横で見ていた前川園長が、泣いている私に「困りましたねぇ」とポツリと言ったのを今でも覚えている。あれから1年経ったことになる。今年は気丈に音楽を聴いているが、私の中の1年前のある部分は、時が止まったままになっている。0,5秒もあればそこに閉じこもることができる。なので、心のその部分には触れない。努力して触れないようにしている。
しかし、考えてみると、「時が止まる」というのは、とても大切なような気がする。今年の年賀状に、「最近は子どもが勝手に体の中に入ってくる」と書いた。子どもは、心も体もずーっと動いている。生きているというのは、そういうことだ。その子どもに合わせて私達大人が動くと、子どもとの接点が持てなくなる。子どもは、動かない私に寄ってくる。動いていない私に入り込んでくる。その時、子どもの本音がわかる。子どもの育ちの今が理解できる。私達大人が、子どもに求め、教え、導き、と子どもに積極的にかかわっている時、子どもは本当の姿を見せてくれない。また、愛情深く寄り添う時も、やはり子どもの真実はそこにはない。
こんなことを言うと、教育・保育の現場で毎日子どもに寄り添って、援助、指導を熱心にされている先生達に叱られそうだ。また、我子をかわいがり、慈しんで育てている親にも怒られそうだ。
しかし、やっぱり子どもは身構えず、求めず、時を止めて、ただひたすらそこにいるだけの人に入り込んでくる。
寒い朝、「何もしたくないな~ぁ」とボンヤリ座ってお茶を飲んでいると、いつの間にかひざにスーッとすわっている。ただすわっているだけ。一生懸命仕事をしている間のちょっと油断した気持ちのすき間に、やっぱり子どもは入り込んでくる。時には、ピトッと横にくっついている。皆さんは、こんな経験をされたことはないだろうか。この時間は、お互いに特にどうということはないのだが、暖かい。
小さな子どもを育てているお父さん、お母さんに提案したい。「時が止まった心の引き出しを子どもに用意してあげよう」
ちょっとした暖かさを経験できたあと、自分の子どもの真実がとてもよく見えることが期待できる・・・と思う。
さて、そんな思いに耽っている暇はなく、音楽に戻らなければならない。一番厄介なのは、いつものことだが、ストーリー(物語)だ。すでにある皆がよく知っている物語は、便利で扱い易いのだが、俗っぽくなりそうで選ばない。物語を生み出すのがちょっとした苦しみと言えばそんな感じだ。とりあえず早く時代設定しなければ、大道具・衣装の担当者に迷惑をかける。このことについては、時間との競争だ。(1か月で仕上げると宣言しているので・・・それ以上かかると出演する保護者や園の生活にも負担がかかりすぎる。)
ファンタジーか昔話か現代物か未来物か、その設定も急がれる。
物語の大枠ができると、曲を選ぶ。そして、その曲を分解して、ひとつひとつ振り付けをする。配役を決める。そして、子どもと大人に指導する。子どもと大人では、体の使い方が違う。同じ曲でも、同じ動きというわけにはいかない。舞台の広さを考えて、1曲1曲構成を変えていく。
父親の練習は、夜に仕事が終わってから。昼間子ども、午後母親、夜父親と続く時は、けっこうキツい。
そして、練習しながら修正をかけていく。同じ練習はしない。数少ない練習時間、機会を有効にするためには、1秒1秒無駄にはできない。同じことの繰り返しは、子どもの集中力が続かない。無気力になる。これは、大人も同じだ。いつも新鮮で、おもしろくて、ちょっとむつかしくて、はじめてやる気が起こる。
さてさて、今からだ。今年はどんな親子ミュージカルができるのか、誰もわからない。勿論私にもまだわからない。どうぞお楽しみに・・・
2018/01/31