CHILD LIBRARY 子どもライブラリー

「夜のあったかクリスマス会」

最初にお断りしておきます。夜のあったかクリスマス会はあまりオススメできません。その理由は、①会場が寒い・暗い・狭い。 ②子どもがよく見えない。 ③動けない・しゃべれない・息をするのも遠慮する。・・・・・など。

ですから、子どもライブラリーの数ある行事の中では、自信を持ってオススメできません。おそらく、初めて経験されるねんねこ組・くまのこ組・そしていちべえ組の1年目の方はガッカリされると思います。

 

ところが、何故か「夜のあったかクリスマス会が一番好きです」という経験者の保護者の声が圧倒的に多いのも事実です。

「そんなはずはない。この劣悪な環境・状況の中での行事に興味・関心を持つ人などいないだろう・・・。」と決めつけることができないのが、この行事の不思議なところです。

可視化できる「教育的プログラム」の中に、子どもの本当の成長はありません。と、運動会の後のカナカナ学習会でおはなししました。子育て(保育)はサイエンス(科学・説明できる)であり、同時にアートでもある。とも説明しました。夜のあったかクリスマスは、どうやらこのアート(感性・直感)の世界観と関係があるようです。

 

話は変わりますが、最近ファスト映画というのが流行しているらしい。また、ハロウィンの渋谷もそうですが、その時だけ集まって、騒いで高揚感を共有するというのが、若者の文化ということらしいです。「トキ消費」と言います。ご存知でしたか?

スポーツ観戦もサッカーのゴールシーンだけを観て皆と一緒に盛り上がるだけでいい。90分間見続けるのは時間の無駄。「タイパ(Time performance)」と言います。ご存知でしたか?

ダイジェスト版で要点だけ触れて、それを共感、共有して、その場限りで盛り上がる。その前後は時間の無駄。勿体ない。時間を有効に活用するというのが、流行の若者文化なのだと教えていただきました。

 

このことについて、言いたいことは山ほどありますが、「まぁこんなのものか」と、ここは大人の分別で受け入れることにします。

私自身も子どもの頃は、たとえば「相撲」をT.Vで観る時、呼び出しや行司の仕草、何度も塩をまく仕切りなど、全く意味がわからず、おもしろくなく「早くぶつかれ」とイライラしていたのを覚えています。

ファスト映画も、ハロウィンでその場だけで盛り上がる「トキ消費」も、サッカーのゴールシーンのみの観戦の「タイパ」も、同じことなのかと思いあたりました。

しかし、私の「相撲」の場合は、「子どもの頃」という条件付です。大人になった今は、ぶつかる前のひとつひとつの「様式」がとてもおもしろく、逆にそちらの方に夢中になっている時もあります。行司の動きに目を奪われて、力士の勝敗の結果を見落としている時さえあります。様式は「様式美」と続きます。「美」に続く様式は段取りとかルーティンではなく、すでにそれは芸術の領域だと思います。

もっとも、そのようなことに関係なくN.H.Kはとても親切で、数秒後には勝敗の結果の録画をファスト映画同様、ちゃんと観せてくれますが・・・。

 

物語の前後を省略したり、結果だけを見届けようとするのは、そこに意義が見い出せないからです。「トキ消費」や「タイパ」と理屈を並べても、それは単に理解する経験値が低く、未熟だということです。未熟の正体は想像力の欠如です。想像力こそが人が人であることの証となります。

命をかけた「通過儀礼」が現在の若者には求められません。20歳になって残っているのは、成人式という型ばかりの儀式だけです。従って、いつまでも精神は子ども時代に留め置かれたまま年を重ねることになります。子どもっぽく結果のみにこだわるのは、自分の人生を生きていることにはなりません。

「通過儀礼」が意味を持つのは、具体的な習俗だけではないからです。それは精神の営みです。快適で便利な生活に、そのような営みは必要ないということでしょうか?消費社会は物質だけでなく、自らの精神の崇高さを消費続けるということです。

 

※通過儀礼(イニシエーション):人の一生に経験する誕生、成年、結婚、死去などの

儀礼習俗

 

さて、「夜のあったかクリスマス会」にもどります。快適でなく、不便で、特に盛り上がることもなく、共有、共感することもなく、ただじーっとして、そーっと身を置いて、何が得られるか? どんな満足感、高揚感があるか?、精神を豊かにする「営み」の意味を是非体験していただきたいと思います。

 

2022/12/05