親子ミュージカルができるまで
今月号は、「親子ミュージカル」の特集。正直に言うと、今までの作品はあまり覚えていない。昨年のタイトルさえ思い出せないこともある。勿論、過去の作品のビデオを見たこともCDを聴いたことも一度もない。「なぜ?」と問われると答えに困るが、これも正直に言うと、「恥ずかしいから・・・」。卒園してからも「子どもが何度もビデオを繰り返し見ています」と嬉しいお便りをいただくこともあるが、私自身はどうも・・・。
親子ミュージカルは、毎回オリジナルで過去の作品を再演したことはない。(タイトルは同じものはある)その年度の子どもたちと保護者と、担当の先生たちで作るものだから、当然1回きりのオリジナルとなる。子どもライブラリーの行事は、全てその心意気で行っている。
私にとって一番むつかしいのは、ストーリーの組み立て。まず、最初の場面と最後の場面ができる。それから、場面をつなぐストーリー展開となる。物語は、「起承転結」と言われるが、私は、「起」と「結」から物語を作る。時代設定も背景も、いつもありそうでなさそうなファンタジーが多い。今回の「起」は、運動会明けの11月には決めていた。それからしばらく放ったらかしにして、年明けからイメージが動き出した。時間をかけて作ることができない思考回路なので、一気に集中してすすめる。計画性のかけらもなく、忍耐についてはもっと望めない。(しかし辛抱はできる。)
ストーリーの骨格ができると、音楽を聴く。今回は4名の協力者に音楽を集めてもらった。相当の曲数をこれも一気に聴く。その中から、気に入ったものを取り出す。基準はない。自分のイメージしたものとのマッチングになる。最近えらぶ曲は長い。今回もっとも長い曲で7分15秒ある。曲を分解して、振り付けをするが、長い曲をえらんだことをいつもここで後悔する。また、不規則なリズムの曲は、何十回聴いても分解できず、腹が立って何度も投げ出したくなる。しかし、結局今までにあきらめた曲はない。ちょっとばかりの意地があって(たいしたものではないが・・・)、文句言いながら、苦しみながら、最後は分解する。
それから、子どもに教える。最初の4~5回の練習は、大きな山となる。子どもも大変だ。右回り、左回りがわからない。動くと元にもどれない。きっかけがつかめない。音に合わない。動きがむつかしすぎる。と、ひとりひとり子どもは大混乱する。約2時間、大混乱が続く。
しかし、この混乱こそが大切。それでもあきらめず、「知りたい」「わかりたい」「できるようになりたい」と、子どもはくらいついてくる。
ここまでの子どもライブラリーの生活の中で積み重ねた経験と力が、その「くらいつき」を可能にする。
親子ミュージカルを観た全国各地の多くの先生が、「私達にも・・・」と希望されるが、作品だけ持っていってもまずうまくはいかない。大切なことは、それまでの自立した園生活をたっぷりと経験することだ。こんな複雑でむつかしい舞台を、6歳の子どもにできるわけがない。「子どもライブラリーの子どもは特別だ」と、いつもこの時期になると思う。
今回は、仕上がりが少し早いかもしれない。細かい部分をこれからつないでいく。大道具・小道具の製作は、これからが本番。職員は、また不機嫌な私の顔色に負けないぐらい強気で、あれこれあれこれ言ってくる。ぶつかり合いの中で、いいものはできあがってくる。全ては、子どもたちと今までにない、今までで一番すごい作品をつくるためにという目標でみんながんばる。
今年は、男の子が圧倒的に多いじんろく組だ。これが厄介だ。男の子は勢いがあるが、リズム感が悪い。学習が遅い。相手に合わせる気持ちが少ない。話を聞いても自分勝手に動く。おもしろいパートは好きだが、忍耐強く繰り返すのは苦手。こんな男の子の良さをどうやって引き出すのか、めんどうな、めんどうな作業が、連日続く。
しかし、そうは言うものの、子どもたちは「よくやってるなぁ」と心底思える。わけがわからん(まだストーリーの全体が見えていない)のに、何時間も・・・。寒くて、待つ時間の方が長いのに・・・。先生達も覚えるのに追われて、個人的な指示まで届かない。そして、ひたすら私はグイグイ求めるばかり。
それでも、朝並んでいく時はとても楽しそう。並んで帰る時もとても嬉しそう。遅い昼食をみんなで食べるのが、ワイワイと楽しい。そして、「どい~あそべる?」「うん、20分だけ~♪」「よっしゃ~!!」と、レストランを飛び出していく。「この明るさは何なんだ!?」と、とても不思議に思える時もある。さて、少しずつ形ができると、子どもたちはひきしまってくる。楽しみ方が変わってくる。次の山まであと1週間か?本番までいくつも山を越える。そして、うんとたくましくなったじんろく組は、小学校へと進学する。
今年の、今年だけの親子ミュージカルを、どうぞお楽しみに・・・。
2017/02/22